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暗号と乱数‐情報セキュリティ
 担当:藤井光昭先生
 講座の目標:秘匿を要するメッセージを相手に送信する一つの方法にメッセージに乱数を加えて送信する方法がある。その乱数には質の良いものを用いる必要があるということで、その質の良さを保障するために検査方法として近年海外ではいくつかの統計的検定法が提案され用いられている。ここではそれらの中のいくつかを紹介するとともに、統計理論の立場からその基本的概念等を講義する。講義はなるべく多く具体的例をもとに演習と実習を取り入れ、また質疑応答の時間を十分にとりたいと思う。

 学習支援のため、講義のパワーポイントと関連資料をUSBを通して提供しています。当日パソコンを持参しない方はUSBをご持参下さい。

 講座内容の一部を下記に示します。

1.用いる数
 0 と 1 の数字の列を扱う。全体が数字 0 と 1とからなる世界である。ここで加減の演算(2進法)が行われ、可能性(確率)が計算される。1 + 1 = 2 ではないのである。そして例えば、最初の数字、2番目の数字、3番目の数字がそれぞれ独立に0 と 1が 1/2 の確率で出現するとき、これら 3 個の数字の和、すなわち、「最初の数字、2番目の数字、3番目の数字」がどのような値をとり、そのそれぞれの値の確率分布はどうなるかといった問題を改めて考えなければならず、通常の数学の世界とは異なった規則や性質が生じる。その説明を行う。

2.提案されているいくつかの検定法の紹介
 米国国立標準化技術研究所 (NIST, National Institute of Standards and Technology) からの出版物(2010)で、暗号の分野で乱数として用いるための乱数性の統計的検定法として 15 個の方法を組みにして提案されている。この講義では、その中のいくつかの検定法を紹介する。例えば
a) 一様性の検定:出現した0 と 1から成る数字の列において、0が確率 1/2
 で出現しているかどうかの検定法。
b) 連を用いての検定:0 が何個も続けて出現すると、「ランダムに出現して
 いる」という ことに対して通常疑問がもたれる。 0 が何個も続けて出現
 するというように同じ文字の 連続した出現を連という。また逆に連が全
 然出現しないというのも不自然である。 0 と  1から成る数字の列の乱数
 性を連を用いて検定する方法である。
c) フーリエ変換を用いた検定法:数学の方法にフーリエ変換という方法があ
 り、 0 と1から成る数字の列をフーリエ変換した値からピリオドグラムと
 いう(工学の分野でもパワースペクトラムとしてよく用いられている)量
 を計算して、数字の列に含まれている周期性を見出そうとする検定法であ
 る。周期があるということは乱数性が欠けているということである。
d) 頻繁に出現するパターンに関する検定法: 0 と 1 から成る数字の列のな
 かに、例えば連続する 5 個の数字が 0, 1, 0, 0, 1 という数字の並びが不
 自然に多く出現することを見出すことは、メッセージを送信する側にとっ
 てはそれをもとに解読のヒントを与えてしまう可能性があり避けた方がよ
 い。メッセージの 1 文字は何個かの連続する 0 か 1 の並びで表現されて
 いて、ある並びが不自然に多く出現することは用いている文字の頻度と結
 びついて解読のヒントを与えてしまうからである。「何個の数字の並び」
 であるか「並びの具体的な形」がわからないときに、ある並びが不自然に
 多く出現することを見出す統計的な検定法の紹介と解説を行う。

3.検定法を使用する際に注意を要すること
 どのようなことが「成り立っている」かどうか、どのような「暗号の送信において不都合なこと」が生じていないかどうかを調べる検定法であるかを絶えず注意を払って使用する必要がある。統計的検定論の立場に立てば、帰無仮説と対立仮説を明確にすることである。しかし、暗号送信用に用いる0 と 1から成る数字の列の乱数性の検定においては、これらの仮説が非常に設定しにくいと考えられる。帰無仮説と対立仮説の説明から始めてこれらの解説を行い、これらに対処するための一つの考え方と用い方を説明する。

<補足>
 2002年度21世紀COEプログラム(日本の大学からのTop 30プロジェクトと呼ばれていました)に採択された「電子社会の信頼性向上と情報セキュリティ」(中央大学)で、文科省から5年間、約5億円の研究費を受けました。そのプロジェクトで、10人の中核メンバーの一人が藤井光昭先生と杉山高一先生です。藤井光昭先生は、助教であった竹田裕一博士と「乱数と暗号」をテーマに研究を進めてきました。藤井先生は20人を超える方々に博士の学位を授与し、お弟子さん達は中央大学教授、東京大学教授、東京工業大学教授、・・・、で活躍しています。統計学の世界で功なり名を遂げた藤井先生が、「乱数と暗号」という新しいテーマに取り組んでいただけることに、プロジェクトの代表者であった辻井重男先生、鈴木康司学長、大学院理工学研究科の長であった杉山高一先生をはじめ、中央大学の先生方は大きな勇気を与えられました。このプロジェクトは2006年度で終わりましたが、藤井先生は現在まで「乱数と暗号」の研究を、2006年に神奈川工科大学の准教授になった竹田裕一先生と続けてきました。今回の公開講座は、その研究成果を分かり易く伝えたいと考えた統計科学研究所がお願いして講座開催が決まりました。講義と討議は藤井光昭先生が担当しますが、実習は竹田裕一先生にお願いしたいと交渉しています。
 なお、プロジェクトの代表者であった辻井重男先生は、2004年に「情報セキュリティ大学院」を設立し、学長として赴任しました。情報セキュリティ大学院では、2014年度までに修士269名、博士28名の修了生を輩出し、情報セキュリティ技術者・管理者、対応実務専門家、研究者など多くの優れた情報セキュリティ分野の人材を世におくりだしています。
 21世紀になり、コンピュータのユビキタス化が加速し、それに伴って社会環境がめまぐるしく変化していく電子社会において、情報セキュリティの向上は永遠の本質的課題であります。この大学院では、暗号、ネットワーク、システム技術、それを使いこなす管理、そして法制や倫理などを包含する体系で教育カリキュラムが構成され、独特の優れた教育が行われています。